あいさつ

序 文

会長 山川民夫

シアル酸は、丁度60前の1936年にスエーデン、ウプサラ大学のグンナー・ブリックスが顎下腺ムチンから一種の結晶性物質を分離し、1952年にその一門によりSia1ic acidと命名されたものである。1942年にドイツ、ケルン大学のエルンスト・クレンクが脳の糖脂質であるガングリオシドの成分として分離したNeuraminsaureの誘導体であることが明らかになった経緯がある。シアロとはギリシャ語で唾液を表す由だが、日本語では最初はシアリン酸と呼ぶ人もあったが、今ではシアル酸の訳語が一般である。

シアル酸は糖タンパク質や糖脂質の糖鎖末端にあって、その物質の陰性荷電を司るが、その化学造が示すように糖の様でもアミノ酸の様でもある興味ある物質として細胞表面や体液のいろいろな生物活性の基になることが次第に判かって来て、我が国でも小倉治夫教授が音頭をとって、1980年、地道な勉強会としてのシアル酸研究会が発足した。

その後、多くの研究者の参加を得て発展し、1985年と1986年には丁度来日していた糖質関係の学者を招待して国際会議を開いた。

更に、1988年には未だ東西ドイツの壁が厳存していたベルリンの日独センターのこけら落しとして、日本とドイツの学者を中心として大きなイベントを開催した。この企画には、関東医師製薬株式会杜の後身であるメクト株式会社の近藤会長、志鳥善保専務、伊藤正善諸氏の貢献は大きい。この会議は4日間に亘り学術的水準の高い歴史的なものであった。

その後は本会の方針としては数社の企業の協力を受けながら、国内外の種々の糖質関係の学術集会を後援する活動を続けている。このような表立たない地道なやり方も、この方面研究の発展のためには大事なことと有識者からは評価されている。

おわりに小倉治夫教授の献身的努力に敬意を表したい。

(1996年8月記)