シアル酸の科学

古代の霊薬、シアル酸

第3章 燕窩の効用
1 食材としての燕窩
2 漢方薬としての燕窩
3 近代医学にみる燕窩
4 薬膳としての燕窩
5 燕窩を用いた薬膳例
文献

第3章 燕窩の効用

1 食材としての燕窩

燕窩を食品素材としてみるとき、スープやデザートの材料の他、多くの薬膳料理が知られているが、いずれもその食感が重要である。しかし、はじめに述べたように燕窩は水に溶けないから、プロテアーゼで酵素分解して可溶化した食品の利用が期待されていた。燕窩のプロテアーゼ処理による可溶成分は、約60%のタンパク質、約10%の中性糖、約10%のシアル酸を含み、ゲルろ過法による分子量は約10万である。この食品の特徴は、燕窩特有のタンパク質に由来する旨味と、シアル酸を含む糖タンパク質のバランスのよさにある。

燕窩は食材としては最高のシアル酸含有物質であるから、その他のシアル酸量の多い食品、牛乳や鶏卵と比べて大差がある。牛乳のシアル酸の約75%が 2,3-、および、 2,6-シアリルラクトース型のオリゴ糖、食品としてのシアル酸の形態は全く違うことを理解して欲しい。また、鶏卵の卵黄はN-型糖タンパク質(アスパラギン結合型)の糖鎖の非還元末端に結合して存在し、卵白ではオボムチンと呼ばれるO-型糖タンパク質(セリン結合型)の糖鎖の非還元末端に結合しているから、食材としての燕窩は全く異質のものである。(第2章4参照)

2 漢方薬としての燕窩1)

漢方では「補中益気」の効能があり、主に疲労回復、肺結核、喀血、吐血、慢性下痢、慢性マラリア、咽、胸のつかえや吐き気を治すのに使用する。趙学敏(ちょうがくびん)の「本草綱目拾遺(ほんぞうこうもくしゅうい)」に記載があり、白色のもの(白燕、官燕)は痰疾や、咳をとめ疲労衰弱を治す効がある。また、血燕は血痢、小児痘疹に有効である。

白燕に梨、氷砂糖を加えて蒸して食べれば、胸に詰まった痰を除くことが出来る。肺を潤すだけでなく腸を滑らかにして胃を開くとある。

用法例1 老人性喘息の治療

白梨1個の芯をとり、燕窩3gを入れ、熱湯に浸してから氷砂糖3gを入れて十分蒸し、毎朝服用する。

用法例2 下痢の治療

燕窩6g、人参1.5g、水2.7gを重湯煎にのせ、とろ火でゆっくり煮て食べる。
やや処方は異なるが、本草葯性大辞典にも記載がある。2)

用法例3 食後吐き気のある慢性病の治療

燕窩を多食して人乳を飲む。

用法例4 老人の痔疾と小児の胎熱の治療

燕窩9g氷砂糖1.5gをよく煮て数回、頓食する。

この例を見ても分かるように、燕窩は補中益気の上薬で肺を治し、胃を和らげるから虚労を去り、肺に入って気となり、腎に入って水を養い、胃に入って中を補うから心身の疲労回復に効がある。薬石で治癒しない場合に有効な時が多いが、火勢が強いときは重剤を用いなければならない。特に、老人の肺結核や小児の衰弱や無気力を治す。

燕窩は今日では粥にしたり、鶏汁で煮たりして非常においしものである。薬膳として用いられる所以であろう。一切の虚症に有効であるから、肺、脾の衰弱に応用して優れた効果がある。また、血燕は血痢を治し、血液を補う。第3章5に燕窩を用いた薬膳料理を記載したので参考にしてもらいたい。

ついでながら、燕関連の漢方薬を付記すると、「燕窩土(えんかど)」と「燕屎(えんし)」がある。燕窩土は本草綱目や本草蒙筌、本草拾遺その他に出典している湿疹や丹毒の治療薬である。金腰燕、和名コシアカツバメHirundo daurisca japonica Temminck et Schlegelの泥巣で、学名からも分かるように、日本にも飛来する普通の燕の1種で屋根下や軒先などに営巣する。蕁麻疹、浸淫湿綜、白禿、丹毒、口瘡を治す。燕窩の金糸燕とは異なる。また、この卵は湖燕卵(こえんらん)といって急性浮腫に1回10箇を服用する。1)

また、燕屎(えんし)2)は日本で最も普通のツバメHirundo rustica L.の糞である。現在ではちょっと考えられないが、虫を用いたまじないの蟲毒に当てられた病や死人の邪気が体内に入ると、悪寒、発熱、胸痛、腹痛、精神錯乱などが高じて死に至る。ひいては一門の大半が死滅するという“鬼主の病”を治すのに用いる。不祥不吉な毒気や邪気を追い払う作用があり、尿、汗、涙、睡、むくみの5つの体液の異常(五隆の病)の病根をたち、小便の出を良くすると言う。

3 近代医学にみる燕窩

燕窩に近代医学の光が照らされてからまだ日が浅いが、1962年、Cohen がマウスの顎下腺から表皮成長因子(EGF: epidermal growth factor)を分離したのに始まる。3)表皮成長因子は、更に人の尿から(Gregory, 1975; Gregory and Preston, 1977)、4)ラットの顎下腺から(Moore, 1978)、5)また、トガリネズミの顎下腺から(Yip et al., 1985, 1986)得られる分子量6000から8000のポリペプチドである。6)哺乳動物では表皮成長因子は表皮や上皮の増殖を刺激し、ヒト繊維芽細胞の細胞培養ではチミジンやアミノ酸の取り込みを助けると報告されている。7)

Kongらの研究によると、7)燕窩の表皮成長因子はDNA合成を活性化すると報告している。その結果は次の表でよく分かるとおり、精製された燕窩の表皮成長因子作用(a)(b)は標品に比べて相当強いものと考えられる。7)

処 理 cpm / mg protein
標 品 155 ± 6
mEGF (ng/mL) 0.016 178 ± 10
  0.08 301 ± 16
  0.4 339 ± 5
(a) (mg protein / mL) 0.1 265 ± 40
  0.3 327 ± 22
  0.9 368 ± 18
(b) (mg protein / mL) 0.01 220 ± 9
  0.03 229 ± 38
表-8 燕窩の表皮成長因子によるDNA合成の活性化7)

その他の重要な作用は粘質ウイルスのヘマグルチン化の有効な阻害剤としての利用である。8)ヘマグルチン化の阻害力は幾らかの無機物質除去を行った燕窩で11,150inhibition units/mgであるが、無処理の原料に較べると相当強くなっている。この作用を利用すればインフルエンザの治療と予防が可能になる。8)

最近の研究によれば、9)燕窩エキスには白血球と血管内皮細胞間の接着を阻害する作用がある。血管内皮で炎症がおきると、炎症部位に白血球のローリング、接着、浸潤現象が起きる。この際、血管内皮細胞上に発現するE-セレクチンと白血球のリガンドとの相互作用は、白血球のローリングによる血管内皮細胞への接着のスタートの合図をするものと考えられている。E-セレクチンをコーティングしたプレートに白血球と試料を添加して細胞接着抑制効果をしらべた結果は、表-9に示すとおり燕窩抽出糖タンパク質は20mg/mLで約40%の阻害率を示した。この結果はシアル酸自身と比較して格段の効果があることを示していることを明らかにした。

試 料 40
mg/mL
20
mg/mL
5
mg/mL
2.5
mg/mL
2
mg/mL
1
mg/mL
A 96.1 71.2 25.3 - - 14.6
B - 50.4 - - 30.6 -
C - 48.3 - - 35 -
D(脱シアロ誘導体) - 19.8 0.5 - - 12.1
N-アセチルノイラミン酸   18.8 6.2 10.5    

A,B,Cはサンプル番号、Dは燕窩抽出糖タンパク質から、硫酸処理でシアル酸を切断した試料で、切断されたシアル酸を含む

表-9 燕窩抽出糖タンパク質の細胞接着抑制効果(%)9)

表-9から明らかなようにこのムチン糖タンパク質からシアル酸を除去した試料Dは阻害率約20%以下と明らかにその効果が低下していることが分かる。また、N-アセチルノイラミン酸自身も接着阻害効果を示さなかった。このことは燕窩に含まれるシアル酸結合型のムチン糖タンパク質の有効性を強く示唆するものである。

その他、シアル酸や燕窩ムチン糖タンパク質を混入したのど飴を服用すると咽頭粘膜表面の連鎖球菌a-型Streptococcus, g-型Streptococcus(グラム陽性), Nisseria(グラム陰性)の細菌数が共に減少することが分かった。9)今後の研究が待たれる。

4 薬膳としての燕窩10)

燕窩は、紀元前の古くから高級料理(薬膳)として用いられていたと考えられる。浙江省・海昌の賈銘(ばいめい)は元の人で明の初め百余才で死んだと言われているが、明の太祖から長寿の秘訣を問われ、「飲食須知」八卷を奉った。この書は1397年(至正27年)頃完成したと言われているが、この中に初めて燕窩の記載がある。有名な李時珍の「本草綱目」(1589年;万暦17年)には記載がないが、趙学敏の「本草綱目拾遺」(1765年;乾隆30年)に詳しい解説があり、博物学書としては後者の方が正確である。11)

明代の1573年(万暦元年)頃、屠本[俊(亻→田)](とほんしゅん)の「閩中海錯疏(びんちゅうかいさくそ)」は同時代の徐𤊹(じょぼつ)が注をつけたものである。屠本[俊(亻→田)]は浙江省・寧波(にんぽ)の博物学者で他に「野菜箋」という植物栽培の書がある。この二人は共にびん(福建省)で運使や処士を勤めた人であるから、両氏の海錯(海産雑物)の知識はなまなかなものではないと考えられるにも拘わらず、燕窩の説明では全く要領をえず、「南海の珍味で、燕が崖の中腹に作った巣へくわえてきた小魚が変化したものであるとか、燕がその巣をくわえて海上をとび、疲れて波間に浮かべて一服するとか、燕が海藻で作った巣であるとか言われている」ので、一度、現地で確かめたいものだと書いている。11)その他、陳[も]仁(ちんもじん)の「泉南雑誌」1606年(万暦34年)には、燕窩は南海の燕が貝を食べて作ったと述べている。11)

明末になると熹宗の頃、帝は炙蛤、鮮蝦、燕巣、魚翅(ふかひれ)などの膾(あつもの)を好んで食べたとの記載があり、宮廷で高級料理として燕巣、魚翅が料理されることが多くなった。また、当時の悪宦官・魏忠賢は下司(げす)らしく、とりまきと、下種料理の狗羹を食べたと書かれていて面白い。11)

犬と言えば、かつては大切な食材の一つであったが、だんだん下等料理になった。にも関わらず、清末の大政治家‘李鴻章’が全権大使としてロンドンへ行った時、ときの英国首相からシェパードを贈られ、喜んで食べてしまったという話が残っている。それは英国に抵抗することもあるとの気概を示したものと考えられる。李鴻章は下関条約調印の際にも日本側を圧倒した。わが国にもこのような人材が欲しいものである。犬料理は中国や朝鮮半島では現在もポピュラーな料理であるし、日本でもかつては犬を食用にし、赤犬を好んだとあるが、中国では、黄犬、黒犬、ついで赤犬の順となっている。南方では白犬が好まれるというが、愛犬家が眼を剥きそうな話ではある。1996年、昆明植物研究所を訪れたとき、名誉所長‘呉征鎰教授’の招待でご馳走になったが、その際に「白犬」の料理がでた。あまり変わった味はしなかった記憶がある。

中華料理のバイブルと言われる「髄園食単(ずいえんしょくたん)」は著者の袁枚(えんばい)が1787年(乾隆52年)72才を過ぎてから書き上げた。この「髄園食単」の献立の第一に上げられているのが燕窩である。また、我が国の書では「唐山款客式」1798年(寛生10年)に珍味の第一には熊掌を第二に燕窩をあげている。12)いずれにしても楊貴妃の昔から紅楼夢13)のヒロイン達に至るまで燕窩を愛用したと言われるが、紅楼夢の一節を引用すると、

『・・・入れ替わり立ち替わり聞こえるそのうるささといったらなく、そのせいで気持が焦ら立ってきますので、紫鵑に命じて寝台の帳子をおろさせました。そこへ雪雁が燕窩湯を一碗運んできて、紫鵑に渡しました。紫鵑は帳子の外からそっと声をかけ、「姫さま、湯を一口なりと召し上がられましてはいかが?」・・・』

紅楼夢では、燕窩湯がよく出てくるが、賈蓉(かよう)の新妻で舅の賈珍(かちん)と不倫して、ついに首をくくって死ぬ美女、秦可卿も月経不順になやみ、燕窩湯を服用する場面がある。

ここでは、燕窩を用いた薬膳の幾つかをあげて参考に供したい。燕窩は大変高価であるから、ときに代用品として寒天を用いた。天津では細寒天を微温湯に浸し、よく洗ってから水をきって5cmばかりに切り、細かく刻んだ鶏冷肉黄瓜と皿に盛り、酢醤油・練辛子で食べる。また、鶏、家鴨の汁に入れ、燕窩の代用とする。厦門では燕窩湯と称して寒天と豚肉を刻み、筍と煮て食べる。また、甜燕湯といって寒天を砂糖と合えて食べる。紛らわしいが注意する必要がある。14)寒天は水で煮れば溶けてしまうから、燕窩とは容易に区別することが出来るが、冷菜では大変まぎらわしい。

5 燕窩を用いた薬膳例10)

5-1 牛乳燕窩湯(ニウルーイェンウオタン)

燕窩細片(毛やごみのないもの)6gを水に入れ水分がなくなるまで煮込み、沸騰した牛乳500gを混ぜて出来上がり。
[効能]益脾和胃、滋陰潤燥の効がある。胃の虚弱、嘔吐、胃液不足、固便などに用いる。

5-2 鶏茸燕窩(ジルンイェンウオ)

燕窩75gを50℃の温水で戻し、毛などのごみを除き、よく洗って碗に入れ、蒸しがまで15分蒸してから丼に入れる。これに、鶏胸肉100gを挽肉として卵2個分の白身、水50gを加えて良く混ぜ、熱湯750gから作った薄あんかけ(適量の食塩と調味料で味付けする)に、ゆっくり入れて軽くゆり動かし火が通ってから丼にかけて出来上がり。
[効能]養陰補益脾の効があり、肺虚、咳、ね汗、胃陰虚などに効く。

5-3 燕窩捶鶏絲(イェンウオツイジースー)

ひな鳥の胸肉400gを細かく切り、卵の白身2個分を混ぜてペースト状にし、緑大豆粉250gをひいた台の上で平らに伸ばし、約15分蒸す。これを簾状に切って碗に盛る。これに燕窩25gを葱、生姜、山椒少々を加えた湯250gからとれる蒸し汁で茹でたあと碗に加えて食べる。
[効能]補腎養血、補脾和胃の効があり、体虚、食欲不振、目まいなどによい。
[参考]生姜は各地で栽培される多年生草本の根茎である。高温で多湿の地によく生育する。漢方薬としても重要であるが、食材としても欠かせない一品である。精油、辛味(ジンゲロール)、黄色色素クルクミンなどを含み、鎮静、鎮痛作用、鎮吐作用、消化促進、血圧下降作用などのほか、プロスタグランジン生合成阻害作用、血小板凝集抑制作用などが報告されている。
[参考]山椒は落葉低木で雌雄異株。葉も料理に添えて利用するが、漢方では果実を採取して、種子を除いて乾燥して保存する。日本薬局法記載の医薬品である。精油、辛味成分、アルカロイドを含み、中枢神経を刺激して健胃、整腸、利尿作用などがある。

5-4 清蒸燕窩鴿蛋(チンジョンイェンウオゴーダン)

燕窩30gを鶏のスープに料理酒を加え、煮立てた中に入れて1分間煮込んでから取りだし、清潔なタオルで水分を除いてからだし汁に入れ、周りに鳩のゆで卵24個を並べ、ハムの千切りを散らして出来上がり。
[効能]補益、脾胃、補腎生血の効があり、腎虚による四肢の無力感、めまいなどによい。

5-5 燕窩湯(イェンウオタン)15)

燕窩3gを50℃のぬるま湯につけて柔らかくし、水を切って細かく刻む。これを、氷砂糖30gを水250mLに溶かした砂糖湯に加えて煮立ててから碗にもって出来上がり。1日1回服用する。紅楼夢の美女達が愛用した常備薬。
[効能]補虚.益損滋腎潤肺の効があり、虚労による体弱や咳嗽.血痰に効く。もっとも簡単でポピュラーな燕窩料理の一つ。

5-6 燕窩粥(イェンウオヂョウ)

燕窩10gを布に包んで湯煎にかけ、数回煮立ててから取り出し、うるち米50gを入れて粥を煮る。随時、食用する。
[効能]補中、益気、養陰潤燥の効があり、陰虚労損による体弱や咳嗽.血痰、ね汗、瀕尿などに効く。

5-7 菊花燕菜(ジウファイェンツアイ)

燕窩250gを50℃のぬるま湯につけて柔らかくし、熱湯(重曹を小量加える)に2分ほど浸けてすくいだし、更に2回1分間ずつ浸けてすくいだし、充分にもどしてからガーゼでよく水気をとり、スープ 1Lに入れて白菊の花びら100gと上質のもやしを加え、料理酒を加えて煮立てた後、アクをのぞいて鶏油を少量かけて出来上がり。
[効能]養陰潤燥の効があり、清肺中虚熱によく、老人の痰のからむ喘息や肺虚に有効。

5-8 清湯燕窩鴿蛋(チンタンイェンウオゴーダン)

燕窩30gを清蒸燕窩鴿蛋と同様に料理して、スープ500gの中にいれ、茹でた鳩の卵をその周りにならべる。ハムの千切りをちらし、ミルクスープ150gを沸騰させて浮いた油を取り除いて注ぎ入れて出来上がり。
[効能]生血補腎、健脾強胃の効があり、倦怠感や無力感に有効。

5-9 攅絲燕菜(ザンスーイェンツアイ)

燕窩18gを鉢に入れ、水を加えてもどす(15分位)。重曹3gをのせ熱湯をかけて箸でゆっくりかき混ぜ、完全にもどしたら熱湯で2〜3回洗い、ガーゼで水気を取る。
鶏肉、もどした椎茸、もどした干し筍、黒くわいの千切りそれぞれ15g、ハムの千切り45gをそれぞれ茹でてからスープで煮込み、味をしみこませて水気をきり、深鉢に並べ、その上に上記の燕巣を並べる。これにスープを熱くして静かに入れて出来上がり。
[効能]滋肺補腎、健康長生きの効があり、肺陰虚、肺結核による体弱や咳嗽.喀血.血痰に効く。

5-10 燕窩蓮蓬蛋(イェンウオレンポンダン)

鶏の卵白150gに鶏スープ60gと塩少々を加えてよくかき混ぜ、大皿の上にそれぞれ油を塗った盃12個にとりわけ、卵黄小塊をのせて蒸し、更に赤身ハムみじん切りを散らして再び蒸す。冷やしてとりだしたものを“蓮蓬卵”と言う。
燕窩30gを清蒸燕窩鴿蛋と同様に料理して、鶏卵白スープ150gの中に山型にいれ、赤身ハム6gをみじん切りにして燕窩のまわりにふりかける。蓮蓬卵をその周りにならべ、煮立てたミルクスープを鉢に入れて出来上がり。
[効能]滋陰補肺、健脾和胃の効があり、ね汗、倦怠感に効く。

5-11 攅絲燕菜(ザンスーイェンツアイ)

燕窩18gを水に入れてもどし(15分位)、重曹3gをのせて熱湯を注ぎ、充分もどしてから重曹水を捨て、更に熱湯で2〜3回洗う。きれいな布に包んで水気をとる。千切りにした、鶏15g、もどした椎茸15g、もどした干し筍15g、黒くわい15g、ハム45gをそれぞれ熱湯で茹でておく。それらをスープ1500gに入れて煮込み、味を浸み込ませて水気をきり、深皿に並べ、煮立てたスープに食塩を加えて味をととのえ、あくをすてて静かに具を散らさないように深皿にそそぐ。
[効能]滋肺補腎、健体長生きの効があり、肺陰虚、肺結核による咳、喀血などに効く。

5-12 龍枸燕窩湯(ルンゴウイェンウオタン)

熱湯に燕窩50gを入れてもどし、更に水150mLを加えて約30分蒸して充分に水を吸収させてからスープ皿に移す。微温湯に漬けて洗った枸杞20gと竜眼肉20g、氷砂糖250gを大碗に入れ熱湯550mLを注いで蒸し、上澄みをスープ皿に入れて出来上がり。
[効能]滋陰養血の効があり、ね汗、咳、目のかすみ、不眠などに効く。
[参考]枸杞(くこ)はナス科の落葉低木で、果実を枸杞子、根皮を地骨皮(じこっぴ)、葉を枸杞葉といっていずれも局法外医薬品とする。この薬膳で用いるものは枸杞子である。卵型楕円形で長さ1.5〜2cm、鮮紅色。日陰で乾燥してから天日で干しあげると良品の枸杞子が出来る。生薬として漢方で処方するほか、薬膳では欠かせない食材になる。カロチノイド、ビタミン類、セスキテルペンなどを含み、強精、強壮に朝鮮人参とイカリソウを加えて煎じて用いる。
[参考]竜眼肉はムクロジ科の常緑高木の果実の仮種皮である。熟果を採取して生食するほか日干しして、果皮と種子を除いて保存する。フラボノイド、糖類、アミノ酸、脂肪、タンパク質、酒石酸などを含み、強壮薬、滋養強壮、鎮静薬として老人や虚弱体質に用いる。

5-13 白及冰糖燕窩(パイジピンタンイェンウオ)

燕窩10g白及15gはよく洗浄してから薄くスライスして鍋に入れ、強火で水がなくなるまで煮詰める。白及だけを取り除き、氷砂糖小量を適量の水にとろ火で溶かして加えて出来上がり。
[効能]補肺養陰、止血の効があり、肺結核の喀血、老人性慢性気管支炎、肺気腫、喘息などに効く。
[参考]白及(びゃくきゅう)はラン科の植物で我が国でもポピュラーなシランの根茎である。ひげ根を除去して水洗し蒸してから外皮をはいで日干しにする。紫花、白花種があるが、いずれも収斂性止血薬として吐血、排膿の目的に用いる。

5-14 秋梨燕窩(チウリイェンウオ)

秋白梨2個を用意し、へたの部分で蓋を作る。芯はくりぬいて燕窩5g、氷砂糖5gを詰め、蓋をして爪楊枝で止め、小量の水で煮て出来上がり。
[効能]滋陰潤肺の効があり、肺虚、咳、痰の絡みなどに効く。

5-15 清湯燕窩(チンタンイェンウオ)

燕窩75gを50℃の湯でもどし、よく水洗してからガーゼで水気をとり、熱湯を注いでよくふやかして碗に入れる。これに鶏スープ1000g、食塩5g、調味料を加えて1時間蒸してでき上がり。
[効能]養陰補益脾の効があり、肺虚、咳、ね汗、胃陰虚などに効く。

5-16 燕窩川貝糖梨(イェンウオチュアンべイタンリ)

燕窩3gを水でよく洗い、川貝3〜6g、氷砂糖3gを秋梨燕窩と同様に雪梨1〜2個につめ、とろ火で煮る。
[効能]補益肺腎の効があり、肺腎両虚、咳、痰の難出、欠力などに効く。

5-17 燕窩冰糖燉雪梨(イェンウオピンタンドウンシュエリ)

燕窩3gを温湯でもどし、よく水洗したものと氷砂糖10gを秋梨燕窩と同様に雪梨1個につめ、水が無くなるまで煮る。
[効能]養陰潤燥、益気補虚の効があり、益痰、止咳、肺結核の咳、血痰などに効く。

5-18 燕窩参(イェンウオシェン)

燕窩3gを温湯でもどし、よく水洗したものに西洋人参3gを加えて沸騰した湯を加え、とろ火で3時間水がなくなるまで煮て出来上がり。
[効能]滋陰益気、益肺陰、清虚熱の効があり、肺結核による微熱、止咳、血痰、ね汗などに効く。

5-19 燕窩銀耳湯(イェンウオインアルタン)

燕窩6〜9gを温湯でもどし、よく水洗したものに銀耳10gを加えて水で1時間煮て、氷砂糖適量を加えて更にしばらく煮て出来上がり。
[効能]滋陰潤肺、清熱止渇の効があり、肺結核による干咳、微熱、ね汗などに効く。
[参考]銀耳は白木耳ともいい、シロキクラゲを乾燥したものである。シロキクラゲは雨期にブナ科広葉樹の枯れ木に生えるキノコの一種である。キクラゲは広葉樹のニワトコ、クワ、ニレなどの枯れ木に群生するキノコで乾燥したものは黒褐色で中華料理には欠かせない食材であるが、銀耳は高級中華料理に欠かせない。また、強精薬としても用いる。

文献

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